年代記

ArcheAgeのストーリーや世界観

女神ヌイの祝福

“女神ヌイの祝福が ヌイアンに繁栄を もたらさんことを”

この言葉は、はるか昔、クレセントスローン城に建つヌイ神殿の礎石に刻まれていた。

そして、その言葉を誰よりも固く信じていた一族の逸話がある。

ソボン家。羊飼いから身を起こしたソボンは、寛大なリドロット王の治世に男爵位を授けられ、数百の家臣を従えるまでになった。王と男爵は気の置けない狩り仲間であり、ときには共に羊を追うことさえあった。王は「ソボン男爵ほど優れた羊飼いを見たことがない」と語ったという。

老いたソボン男爵には、五人の息子と四人の娘がいた。彼らは皆、名家へと嫁ぎ、あるいは婿入りし、生まれた孫たちは四十人にも及んだ。そのうち七人は卓越した騎士として成長し、リドロット王に仕えた。また、三人は女神の神官となり、二人は学者となった。もちろん、一族は千頭を超える羊の群れも所有していた。

誰の目にも祝福された一族だった。ソボン男爵は、“女神ヌイの祝福”こそが、一族をここまで押し上げたのだと信じていた。人々もまた、女神が彼らを愛していることを疑わなかった。

だが、リドロット王が八十を越え、ついには王妃の顔すら判別できなくなると、クレセントスローンには新たな王が必要となった。

王には六人の子がいたが、王族かどうかにかかわらず、城の地下に存在する「迷宮の試練」を突破した者のみが次代の王になることができた。

本来であれば、王がここまで老いる前に、新たな王が現れているはずだった。そうなればリドロット王は喜んで王座を譲り、聖なる島へ旅立っていただろう。しかし、迷宮は二人の王の子を含む七人を呑み込みながら、なお新たな王を生み出さなかった。やがて人々は恐怖し、試練へ挑むことを避け始めた。

ソボン男爵は忠実で、欲のない男だった。優秀な子孫を数多く抱えていたが、自らの一族から王を出そうなどと考えたことは一度もなかった。

しかし、リドロット王の状態が世に知れ渡り、「女神は王座を見捨てた」という噂が流れ始めると、男爵は思った。ただ次の王を待ち続けるだけでは、寛大なるリドロット陛下とクレセントスローンへの義理を果たせないのではないか、と。

彼はまず、騎士となった七人の孫たちを順に迷宮へ送り込んだが、一人として戻らなかった。

そして、神官となった三人も、また帰還しなかった。王家の系譜を研究していた二人の学者の孫は、これほどの事態が歴史上前例のないものであることを知っていた。

本当に、女神ヌイはクレセントスローンを見放したのか。彼らもまた、ついには迷宮へ送られた。こうして迷宮は、ソボン男爵の十二人の孫を呑み込んだ。

その頃には、男爵は目に見えてやつれていた。三人の子を失った妻の一人は首を吊って死んだ。それでも男爵は止まらなかった。彼はなお、女神ヌイが自らの家門を祝福していると固く信じていたのだ。

やがて、さらに幼い孫たちまで迷宮へ入れられるようになった。九歳のシド・ソボンが入った時、一族にはもう若者が残っていなかった。

やがて、人々は狂った男爵を罵り、ソボン家は女神の呪いを受けたのだと囁き合っていた。

それでもソボン男爵は止まらなかった。年老いた三人の息子が迷宮へ挑み、そのまま命を落とした。続いて娘たちが後に続いた。ついに迷宮は、ソボン家の四十五人を呑み込んだ。

一族に残された者は、ただ一人になった。最後に、男爵自身が迷宮へ足を踏み入れた。

こうして、ソボン家は滅びた。かつて深い緑の丘を駆けていた者たちは、煙のように消え去った。千を超える羊の群れも、四方へ散っていった。

丘の頂に建つソボン城はいまなお空のままである。誰一人として、あの城へ住もうとはしない。

ただ、不気味な噂だけが残った。城門の前に黒い犬たちが集まっていたが、その数はちょうど四十六匹だったという者もいる。首を吊った妻の泣き声を、城の塔の上で聞いたという者もいた。

しかし、迷宮へ入った者たちの亡霊を見た者はいない。まるで魂すら、迷宮から逃れられなかったかのように。

やがて、視力を失い、腐り落ちる両脚を切り落とされ、自分が誰であるかすら忘れてしまったリドロット王は、王妃に食べさせられる粥を十日もの間ひと口も飲み込めぬまま、飢えて死んだ。

その後、王に仕えていた若き従者ベレティスが迷宮へ入り、そして生還した。五十五人目の挑戦者だった。

ベレティス王が即位するまでに、迷宮が五十四人を呑み込んだ出来事は、後にも先にも存在しない異例の事件として語り継がれている。

それ以前は、迷宮が王を選び出すまでに犠牲となる者は平均して三人ほどであり、最初の挑戦者が王となることが多かったという。

後世の人々はこう囁いた。羊飼いだったソボンを男爵にしたのも、そして最後にはソボンの名を一人も残さぬまでにしたのも、すべては“女神の愛”だったのだ、と。

おそらく、それは真実なのだろう。ヌイアンたちが母と呼び、心臓と呼び、生命そのものと呼ぶ女神ヌイ。彼女が支配する地は冥府であり、すなわち彼女は死の女神でもあるのだから。

ソボン家は今なお女神の地で繁栄を続け、彼らの黒い羊たちが、青黒い丘を埋め尽くしているに違いない。

ソボン家が消えた後、誰かが礎石に刻まれた言葉を少しだけ書き換えた。

その文言は、今もなお語り継がれている。

“女神ヌイの慈悲が ヌイアンを生へと 導かんことを”

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