キープローザ・ダイアー(Kyprosa Daeior)
人物
キープローザ・ダイアー(Kyprosa Daeior)は、オーキッドナの異母姉で、最初の遠征隊の一人。
幼少期に過ごしたダイアー城はモミの木の城とも呼ばれ、そこで魔法使いデニー・ストリオス(ゲーム内ではデニストリオースとも表記される)から魔法を学ぶ。
簡単な魔法が使えることに加え、黒魔法に手を出し狂人となったため城を去った父レイヴンのせいで、城内ではオーキッドナとともに煙たがられる存在だった。より深く魔法を学ぶため、妹のオーキッドナとともにデルフィナードへ旅立つ。
ジンとは恋人同士だった。
『愛』適性の象徴となる人物。
オオカミの子
ダイアー城はモミの木の城とも呼ばれ、ダイアー高原にそびえ立つ一本の槍のようだった。冷たく荒涼としたその地で、ただひとつ、鋭く光を放っていた。
彼らの領主は「モミの木の王」とも呼ばれていた。王を名乗るほどの広大な領地も、富も、多くの民も持ってはいなかったが、その名がふさわしくないと言う者は誰もいなかった。実際のところ、彼らは北メア王国に忠誠を誓う小領主にすぎなかった。しかし同時に、名高い精鋭――ダイアー槍兵を支配する者でもあった。
モミの木の王、ジェイム・ダイアーが戦死し、その妻ロジアが領主となった時、家には三人の息子がいた。だが誰一人として跡を継ぐことなく、やがて姿を消していった。
時が流れ、老いたロジアのもとに残ったのは、孫が一人と、孫娘が一人だけだった。祖父と同じ名を持つジェイム・ダイアー、そして父がイトヒバにちなんで名付けた、キープローザ・ダイアー。
イトヒバは、墓や死、永遠の苦痛を象徴する木である。そのため人々は奇妙な名だと顔をしかめた。だがキープローザの人生は、その名以上に過酷だった。
キープローザの父レイヴンは狂人と呼ばれ城を去り、母は生まれたばかりの娘を捨てて実家へ戻った。領主である祖母ロジアは彼女を嫌い、キープローザは召使いたちの中で下働きとして育てられた。
城を去った父が、妹オーキッドナを送りつけてきた日、ロジアは激怒し、その赤子を捨てよと命じた。キープローザは夜中、一人で外へ出た。森に捨てられた赤子を探そうとしたが、いつの間にか道に迷っていた――。
酷寒の訪れる時期だった。歩いても歩いても、狩人の小屋すら見当たらない。星明かりが次第に消え、やがて高い断崖が行く手を遮った。どうやら、完全に道を誤ってしまったらしい。
このままでは、赤子を助けるどころか、キープローザのほうが先に凍え死んでしまう。
半ば諦めた気持ちで、彼女は断崖に沿って歩いた。すると、大人がようやく入れそうな裂け目が現れた。
中がどうであれ、外の吹きすさぶ冷気よりはましだろう。そう思い、キープローザは中へ入った。入口付近は狭かったが、左右の壁を手探りに進んでいると、突然、周囲が開けた。
四方に灯りがあった。キープローザは自分の目を疑った。寒さと疲労で倒れた自分が、死に際に見ている夢ではないかと。洞窟の中は、煉獄色の大理石で造られた円形のホールだった。灯りは、壁に掛けられたランプから放たれている。
キープローザはホールを一周した後、アーチ状の出口を見つけ、そこへ進んだ。廊下を抜け、ある部屋に入った少女は、思わず息をのんだ。
それは、自分の寝室だった。
しかし、同じ場所のはずなのに、その光景はまるで違っていた。暖炉には火が勢いよく燃え、ベッドには柔らかな羽毛布団が敷かれている。その上には、一度も着たことのない青いベルベットのドレスが置かれていた。
キープローザが戸惑いながらドレスに触れていると、扉を叩く音がした。まるで盗みを見つかったかのように、体がこわばった。
入ってきた人物が誰なのか、最初は分からなかった。その男はキープローザを見ても驚かず、近づいて隣に座り、彼女の頭を撫でた。
「どこへ行っていたんだ、ローサ。こんなに寒いのに一人で出て、道にでも迷ったら大変じゃないか」
この人は誰だろう。どうしてこんなにも優しい言葉をかけるのだろう。キープローザは男の顔をじっと見た。すると、城に飾られていたある肖像画を思い出した。ランドリー曾祖父が死の直前に描いたという、その絵にそっくりだった。
言葉を失い、ただ瞬きをしていたキープローザは、ようやくその男が誰なのかが分かった。
父、レイヴンだった。
城を去ったはずの父が、なぜここにいるのかは分からない。だが、その優しさに触れた瞬間、知らぬ間に体の奥から温もりが広がり、肩の力が抜けるようだった。父はキープローザの肩を軽く叩き、ドレスを見て笑った。
「仕立て屋の婆さんが急ぐと言っていたが、もう出来ていたのか。一度、着てみるか?」
キープローザは慌てて首を振った。こんなに美しい服が自分に似合うとは思えなかった。仕立て屋が自分の服を作るというのも不思議で、何より、ドレスを着てしまえば、この夢が覚めてしまいそうだった。
たとえ夢でも、まだ目覚めたくはなかった。
やがて二人は部屋を出て、下の階へ降りた。レイヴンは降りるあいだずっと、キープローザの手を握っていた。その手の温もりはあまりにも見知らぬもので、あまりにも切なく、キープローザはその手にしがみついていた。
下に降りると、再び驚くことになった。二度目だったため、いくらか早く理解できた。
母が椅子から立ち上がり、キープローザを抱きしめた。母はキープローザの髪を結い直しながら、三人を食堂へと急かした。そこには、死んだはずのシオドリック叔父、逃げたはずのデン叔父、さらにはキープローザが生まれる前に亡くなった祖父までもがいた。
ロジアはキープローザを自分の隣に座らせ、服の乱れを整えながら、にこやかに言った。
「どうしてこんなに可愛いのかしら、私の孫は」
モミの木の城で、これほど賑やかな晩餐はかつてなかった。父はシオドリック叔父と明日の狩りの計画を立て、デン叔父は冗談を言って祖父にたしなめられ、キープローザに助けを求めて目配せをした。
キープローザは自分が何を言ったのかも分からなかったが、祖父はすぐに大きな笑い声をあげた。
自分は、こんなに笑った日がこれまであっただろうか。そう思った時、冷たい静寂に包まれたモミの木の城が思い浮かんだ。
そして、ここがどこなのかを悟った。
影の城だった。父が残した日誌に記されていた、あの場所に違いない。深い森のどこかにあるという影の城では、すべてがモミの木の城とは逆のことが起こるという。
だから祖父は戦死せず、祖母が領主になることもなく、父は去らず、叔父たちも死なず、そして、誰もがキープローザを愛している。こんな光景を望んだことはなかったが、こんなにも良いものだとは思わなかった。このまま、ここで暮らしてしまおうか。そう思いかけた、その時。誰かが扉を開け、晩餐の場に入ってきた。今度は見覚えのある人物だった。エルマ叔母だ。その腕には赤子が抱かれていた。
シオドリックが立ち上がって近づくと、エルマは赤子を渡しながら言った。
「お腹いっぱいなのに、まだぐずってるの。お父さんに会いたいみたい」
シオドリックが死んでいないのだから、エルマに子供がいたとしても何も不思議ではない。だが、その赤子を見つめているうちに、キープローザは自分が何かを忘れている気がした。何だったか。キープローザは父を見た。
「お父さん、オーキッドナは?」
レイヴンはゆっくりと首を傾げた。
「オーキッドナ?それは誰だ?」
理解は、ゆっくりと訪れた。温かなざわめきが再び食堂を満たす中、キープローザは立ち上がった。椅子を引き、食卓から離れ、ゆっくりと歩き出した。
足は重かったが、気づけば入口まで来ていた。
父の日誌の中で、彼は影の城を探していた。見つからなければ魔法で呼び出そうと、執拗に研究していた痕跡があった。
もしかすると、父が影の城を呼び出したことで、キープローザもここに来れたのかもしれない。だとすれば父もここに来たはずだが、彼はどこへ行ったのだろう。
父もまた、この光景を見たのだろうか。それは彼にとっても幸福だったのだろうか。それでもなお、ここに留まらなかったのだろうか。それとも、ここにいるが見えないだけなのだろうか。もしそうだとしたら、彼はどこにいるのだろう。
父が影の城を求めた気持ちが理解できた。きっとキープローザと同じだったのだ。冷たいモミの木の城、領地と槍兵に忙しく自分を顧みないロジア。
だが、だからといって、この場所に留まることに意味はあるのか。ここには、“本当のレイヴン”はいない。狂人と呼ばれた、あの父は。
影の城は、本物ではない。ここで起こることも、真実ではない。この城では、オーキッドナは決して生まれない。父が去ることがないからだ。だがもしここに残れば、現実の森に捨てられたオーキッドナは、確実に死んでしまう。昨夜、自分は命をかけて城を出た。その決意は、簡単に捨てられるものではなかった。
影の城を出るのは簡単だった。モミの木の城と同じ構造をしているため、見慣れた道を辿れば、そのまま城門へ出られた。
キープローザは再び一人で森へ出た。暖炉の火、ベッド、その上の青いベルベットのドレス。二度と触れることのないそれらを思いながら。
やがて雪が降り、森は白く輝いた。昨日はなぜ迷ったのか分からないほど、まるで誰かに導かれるように。
キープローザは、赤子の泣き声を聞いた。同時に、遠くで狼の遠吠えが響いた。恐れはなかった。
やがて、赤子の入った籠が見えた。マントの裾がモミの枝に触れ、凍りついた雪が砕けて落ちた。
どうか。どうか、生きていて。
チョン・ミンヒ著『もみの木と鷹』より