最初の遠征隊
説明
デルフィナードで出会った12人の英雄たちで結成された遠征隊で、庭園へ通じる世界のへそを目指す。図書館遠征隊とも呼ばれる。
世界のへそへ到着後、庭園の扉に惹かれたオーキッドナがその扉を開く。
オーキッドナは、扉を開いた代償としてどこかに閉じ込められ、他の11人も長い期間、庭園に留まる。
その後、庭園内にあった権能の座にジン・エアンナ・アーランゼビア・オロー・イーノックが座り、それぞれキリオス・ヌイ・ダフタ・シャティゴン・ハジェと同化し、庭園を出る。
神と同化しなかったキープローザ・オーキッドナ・タヤン・メリッサーラ・ルシウス・アーランゼブは、遅れて庭園を出る。
オーキッドナは庭園から抜け出す際に悪魔と契約し、ウォーボーンの女王になる。
ネイマーは、庭園内でジンを庇って命を落としたとされている。
遠征隊員
- ジン
- キープローザ
- オーキッドナ
- タヤン
- メリッサーラ
- ルシウス
- エアンナ
- アーランゼブ
- アーランゼビア
- オロー
- イーノック
- ネイマー
最初の遠征隊
黒い穴から風がぐるぐる回って出てきた。 足元の石が砕け落ちた。 それらは無限の空間にこだまを響かせながら遠く離れていった。 彼らは空を見上げた。 そしてまた穴を見下ろした。 あの空のように予想もつかないほど遥かに遠い深さが、この穴の下にはあるのだろうか。
「怖いな」
草原の戦士であるタヤンからまず先に、そんな言葉が出るとは思わなかった。
「お前がそんなふうに言うから、ますます怖くなってきたな」
ジンがタヤンの肩に右腕をのせて言った。
「デルフィナードを牛耳っていたお前らがそんなことを言うなら、私のようなものは気絶でもしなくちゃならないな」
そう言いながらルシウスは、穴の縁に近づき、危なっかしい姿勢で覗き込んだ。 エアンナがびっくりしてルシウスの襟元を掴んで引っ張った。 その様子を見ていたアーランゼビアが笑いながら言った。
「一番無謀なのは詩人のあなたね。まったく」
「詩人はいつも向こう見ずなのよ。デルフィナードでそうだったようにね。」
ルシウスを引っ張り上げたエアンナは、頭を小突く真似をした。 小突かれたルシウスが倒れそうなふりをしていると、タヤンが聞いた。
「何か見えたか?」
「見えたかって?まさか。上も下も霧だけだよ」
ルシウスが答えた。 ジンは石を一つ拾い、遠くに投げてみた。 皆、耳を澄ませたが、何も聞こえなかった。 ジンが目配せすると、タヤンも石を拾い、何歩か下がって力いっぱい投げた。 フェレの力は馬の首を折るほどだったが、やはり何の音もしなかった。 ジンが言った。
「少なくとも二百歩はあるということか」
ジンはタヤンの力をよく知っていた。 仲間が話す間、穴の縁を調べていたアーランゼブが、歩きながら霧の中に消えていった。 アーランゼビアが叫んだ。
「どこに行くの?」
返事はなかったが、しばらくして戻ってきたアーランゼブは、自分を見ている仲間に向かって首を振った。
「穴の縁を測って幅を計算しようと思ったけど、縁が丸くないんだ」
すると、それまで一人考えに耽っていたキープローザが顔を上げた。
「曲率から穴の直径を計算しようとしてるの?もう少し遠くまで行けば、できるかもしれない」
円周上の二点の距離から曲率を求め、逆算して直径を求めるという発想は、幾何学が得意なデルフィナードの魔法使いらしい考えだった。 アーランゼブが微笑みながら言った。
「必ずしも円とは限らないよ」
「いいえ、円だと思うわ。ここは世界の中心でしょ?」
魔法使い同士でのみ通じる、他の仲間には理解できない話だった。 ジンはちらっと見たが、キープローザが目を逸らしたままなので、何も言わなかった。 ルシウスが二人に向かって、もうやめろと手を振りながら言った。
「魔法使いにしか分からない話はそのくらいにしてくれ。とりあえず、動いてみよう。もしかしたら、優雅に下れる昇降機があるかもしれないしね」
「その昇降機には、もちろん手すりもあるんだろうな」
オローの返事に、ルシウスは笑った。
「もちろんさ!案内嬢もいるかもね」
遠征隊は立ち上がり、穴の縁に沿って歩き始めた。 右には果てしなく広がる荒野、左には無限の穴を眺めながら。 その異様な対照に、彼らの心は強く揺さぶられた。 ここの存在も、ここに存在する自分たち自身も驚異だった。 世界が隠した秘密は、いつか明らかにされる運命だった。 彼らは何かを見つけた。残念ながら昇降機ではなかったが、虚空に浮かぶ石の階段だった。 飛び石とでも言ったほうがいいかもしれない。 その石は、一歩ずつ下りていけるように続いていた。
「すごいわ」
エアンナが感嘆しながら、怖がりつつも下を見下ろした。並んで見下ろしていたメリッサーラが言った。
「途中で途切れているな」
メリッサーラは目が良かった。上の方の階段と重なって少し見ただけでは分かりづらいが、確かに途切れているところがあった。 もっと目が良いタヤンが来て、見下ろしながら言った。
「いや、その下にまた続いているようだ」
草原の種族であるフェレの視力は、人間の二倍以上だった。 そんなタヤンの目にすら見えない先は、下りて確認するしかなかった。 オローが不安定な姿勢で、ヒゲをいじりながら言った。
「結局、ここから下りなければならないということか」
「おじさんは私の服にでもつかまってついてきてね。心配いらないわ」
アーランゼビアはそう言って、けらけらと笑った。 エルフの彼女にとって、このくらいの階段は何も怖くはなかった。 キープローザが言った。
「どれくらい下りなくちゃいけないかは、誰にもわからないわ。暗くなっても、底までは行けないかもしれない。だからって、簡単に戻ることもできないだろうし」
「それで、行かないつもりか?」
ここに到着して初めて聞く、イーノックの声だった。 このとき初めて、イーノックがそわそわしているのを感じた。 いつもは低く落ち着いた声が、興奮して少しかすれていた。
「行かなくちゃいけないな」
アーランゼブが答えた。目から目へ、気持ちが伝わっていった。
「もしかすると、永遠に戻ってこられないかもしれないな。 クソっ、まだ世の中をひっくり返せるような名作も書けていないのに。私のようにカッコいい奴がこの世にいたってことを、どうやって後世に伝えればいいんだ」
ルシウスが頷きながら、呟いた。誰であっても、身の安全を考えれば、こんなところまでは来ないだろう。ふと、ジンがそばに立つ岩をコツコツと叩いた。
「名前を残したいのか?ならば、ここに彫っていこうか」
その日は特別な日だった。血統も気性もまったく異なる彼らが、子供のようなジンの提案に心を動かされたのだ。 アーランゼブが石ころを一つ拾って呪文を唱え、差し出した。
「これでいいだろう」
石ころは片方の端が赤く光っていた。キープローザがまず受け取り、岩の上の方に名前を書いた。 まるで砂浜に書くかのように簡単だった。 続いて、石ころを妹のオーキッドナに渡すと、オーキッドナが曲がった字で名前を書き、笑いながらタヤンに石ころを渡した。
「これでいいか?」
タヤンは公用語で書いた自身の拙い文字が変なのか、首を傾げながらジンを呼んだ。 続いて、ジンがさらさらと書いた。ジンはメリッサーラに石ころを渡した。 メリッサーラは名前を書くことをしばらく迷っていたが、その後に苗字まで書いた。 ジンはそれまでメリッサーラの苗字を知らなかったが、どこかで聞いたことがあるような気がした。
「さあ、さあ、次は私だよ」
メリッサーラがのんびりしているのに焦ったのか、ルシウスが石ころを奪うように取り上げて、名前を書いた。 その次はエアンナだった。端正に名前を書いたエアンナは、アーランゼブに石ころを渡しながら言った。
「先生の番ですよ」
アーランゼブが書いた後、養女であるアーランゼビアが石ころを受け取り、次にオローが受け取り、オローがイーノックに渡した。 イーノックは簡単に名前だけを書き、ネイマーの方を振り返った。
「君の名は私が書いてあげよう」
ネイマーはわけも分からず微笑んだ。彼女は文字を知らなかった。
天地がこの世に生まれ、母が万物を創って以来、彼らは生まれたところに帰ってきた最初の帰還者たちだった。 彼らが歩いた道は長い間忘れられていたが、彼らが帰ってきてしまったことは、永遠に忘れられることはなかった。
岩に刻まれた名前は、数千年が経っても消えることはなかった。
いつかここを訪れるものは、まず最初にこの名前を見るだろう。