アーランゼブ(Aranzeb)
人物
アーランゼブ(Aranzeb)は、エルフの最初にして最後の王で最初の遠征隊の一人。
エルフの国「エノア」のアル氏族の出身。父は魔法使い。デルフィナードではルワン・アレクサンデルの弟子になる。
庭園では神と同化せず、キープローザ、オーキッドナ、タヤン、メリッサーラ、ルシウスとともに遅れて帰還した。
庭園から戻った後、アーランゼブはタヤンとともに、破壊神キリオスと同化したジンを阻止するため「祭祀の丘の誓約」を結ぶ。しかし、タヤンとともに命を落とす。
王を失ったエルフは、キリオスへ復讐するため隠遁することになる。
アーランゼビアの育ての親でもある。後に女神ダフタと同化したアーランゼビアは、アーランゼブへの愛ゆえに自らを深海の島に封印したとされる。
『魔法』適性の象徴となる人物。
高潔な隠遁者、アーランゼブ
アーランゼブは、アル氏族の出身だった。彼が生まれたエノアは、ほかの種族が楽園と呼ぶほど美しい土地だった。
父イレンマルは魔法使いだったが、偉大な魔法使いになろうとはせず、氏族の人々の間で静かに暮らすことに満足していた。
エノアは王国だったが、その内側には多くの氏族があった。彼らは、自分たちの氏族から重要な職に就く者を出すことを理想としており、魔法使いを多く輩出する氏族ほど発言力が強くなった。魔法使いは望めば元老院の議員になれたからである。
当時、氏族同士の利害対立は深まりつつあり、魔法使いの子どもたちは注視されるようになっていた。アーランゼブも例外ではなかった。
イレンマルは、子どもたちが望んでもいないのに魔法使いとして育てられ、元老院で自分の意思とは関係なく氏族だけを代表しなければならない状況を不快に思っていた。そのため、彼はあえて息子に何も教えず、自由に遊ばせた。
幼いアーランゼブは、一人であちこちを歩き回った。森だけでなく、山、海、湖、洞窟まで、足の向くままに進み、道に迷うとその場で祈りを捧げて眠った。
目を覚ますと、どれも同じに見えた木々や岩の間に、不思議なことに道が姿を現していた。彼はまだ幼すぎて、その力が一種の魔法であることに気づいていなかった。
ある日、アーランゼブがエルフでさえほとんど足を踏み入れない暗い森でまた道に迷い、眠り込んでいたとき、一人の少女が木々の間から現れた。少女は落ち葉の上で眠るアーランゼブを、しばらくの間、魅入られたように見つめていた。そして近づき、彼の足に触れた。
すると、アーランゼブの夢の中に少女が現れた。彼と少女は手をつなぎ、森の中をさまよった。やがて一つの洞窟の前にたどり着くと、洞窟から髭をたくわえた老人が出てきた。
老人の姿をしたエルフは珍しく、アーランゼブはぼんやりと彼を見つめた。そのとき老人は近づいて彼の手を取り、こう言った。
「お前は私のために駆けつけるだろう。だが、そのとき私はすでに去った後だ。その時は、私のために杖を掲げてくれ」
アーランゼブは驚いて目を覚ました。目の前には誰もいなかったが、いつものように道が現れていた。彼は飛び起き、その道を進んだ。
見慣れた風景が続いた先で、彼は夢に見た洞窟へたどり着いた。すぐには入れずにためらっていると、夢の中と同じように洞窟から人が出てきた。
しかし、今度は老人ではなく青年だった。そして夢の中のようにすべてを知っている様子ではなく、不思議そうな顔で尋ねてきた。
「どうやってここを見つけたんだい?」
アーランゼブが自分に起きたことを取り留めもなく説明すると、青年はしばらく考え、洞窟の奥へ向かって「ニネル!」と呼んだ。すると、夢に出てきた少女が現れた。
「この子が君の夢に出てきた少女かい?」
アーランゼブがうなずくと、青年はニネルを見て「夢の力を使ったのか」と尋ねた。ニネルがおずおずとうなずいた。
「知らない者に魔法を使うとは!」
青年は厳しい顔で叱り、アーランゼブへ向き直って謝った。
アーランゼブはうなずいたが、この出来事が不思議でたまらなかった。
「でも、夢の中ではおじさんは老人の姿でした。それに、僕に変なことを言いました。それもニネルが吹き込んだ話なのですか?」
アーランゼブが夢で聞いた言葉を伝えると、青年は深刻な表情で耳を傾け、その言葉をゆっくりと繰り返した。エルフが聞いた言葉を繰り返すのは、記憶するためだった。
やがて青年は言った。
「坊や。私はエル氏族のアレクサンデルという。ニネルは私の姪だ。だが、君が夢で聞いた話は、ニネルが吹き込んだものではない。ニネルは無意識に触れる力を持つ子だ。夢を見せたのは確かにニネルだが、細かな内容を決めるのは、君の無意識と予知の力だ。つまり、夢の中の言葉は予言ということになる。今の私には、まだその意味は分からない。だが、私が老人になるまで、君と私に何らかの縁があることだけは分かる」
アレクサンデルは、アーランゼブに密かに訪ねてくるよう告げた。そして魔法を教えてくれた。青年のように見えても、アレクサンデルは数百年前からエノアで一番の魔法使いだった。彼が去ったことで、エル氏族は元老院で大きく不利になったという。
アーランゼブはそうした事情を知らないままアレクサンデルの洞窟へ通い、少しずつ魔法に目覚めていった。ニネルとも兄妹のように過ごした。両親を失い、叔父と森だけで暮らしてきたニネルは、最初からアーランゼブを気に入っていた。そしてアーランゼブも、やがて恋に落ちた。
二人が結婚したいと言うと、アレクサンデルは困惑した。二人はまだ二十歳ほどにすぎず、エルフにとって二十歳は子ども同然だったからである。だが、子どもの戯れとして片づけることもできなかった。幼くとも、身体はすでに成熟していたからだ。
そして何より、アレクサンデルはアーランゼブを近くに置いておきたかった。
ついにアレクサンデルは二人を連れ、イレンマルを訪ねた。長い間姿を消していたアレクサンデルの出現に、イレンマルは大いに驚いた。訪問の理由を聞くと、さらに驚いた。
息子が魔法の才能を示した以上、結婚相手は氏族内から探さなければならなかった。しかしイレンマルは、そうしたやり方を誰よりも嫌う人だった。
イレンマルはアレクサンデルと話し合った末、アーランゼブの魔法の才能を隠すことにし、二人を結婚させた。
それは奇妙な結婚だった。アーランゼブとニネルは、エノア全体で最も若い夫婦だった。二人が家を建てると、ほかのエルフたちはままごとをする子どもを見るような、いぶかしげな目を向けた。実際、二人は家で過ごすよりも野原を走り回っていたずらをしたり、葦の花で互いをくすぐりながら笑い転げたりすることの方が多かった。
そのためか、子どももできなかった。母アリベルは近所の人々に「子どもが子どもを産むなんて、そんなことがあるでしょうか」と言っていた。
数十年後、百歳にも満たない二人の間に娘アラニヌが生まれた。三人とも子どものような、奇妙な家族だった。それでも、愛情だけはどの家族にも劣らなかった。
その頃、弟子を取るようになっていたアレクサンデルは、二人を一番弟子とした。そこでようやくアーランゼブが魔法使いであることが明らかになり、ニネルとの結婚が問題視されると、二人はそれぞれの氏族を離れ、自分たちとアラニヌだけが属するアラニ氏族を作った。
その出来事は大きな物議を醸したが、若く大胆だった彼らは何も恐れず、何も羨まなかった。三人の家こそが楽園であり、三人の中に世界のすべての平穏があった。
それから百年は幸福な時代だった。三人は同年代のような姿で森を歩き回り、道探しをした。幼い頃のアーランゼブが見つけていた道は、目に見えない魔力が流れる小川のようなもので、森の中に特に多く存在していた。
アラニヌが道を見つけると、アーランゼブはそれを利用して魔法を増幅する方法を教えた。成人したアーランゼブは、昔のように無邪気には笑わなくなっていたが、落ち着きと思慮深さを備えた男になっていた。父の導きのもと、アラニヌの魔法も神秘的に育っていった。
その頃、アレクサンデルはデルフィナードへ向かうことになり、共に来るよう誘った。しかし夫婦と幼い娘はエノアの森をあまりにも愛していたため、その誘いを断った。
アーランゼブが魔法使いとして頭角を現すほど、アル氏族は彼の存在を惜しみ、エル氏族に敵意を抱いた。争いが増えると、ほかの氏族が仲裁し、二人は両氏族の事柄に共に関わることになった。
しばらくはそのまま落ち着くかに見えたが、今度はニネルをアル氏族に奪われたと感じたエル氏族の若者たちがアーランゼブを狙い、逆に二人も死ぬ事態となった。
自分の魔法が強すぎたために起きたことではあったが、アーランゼブは深く自責し、もう魔法を使わないと誓った。しかし、すでにそれで終わる問題ではなかった。
復讐は春の嵐のように訪れた。エル氏族の武装した若者たちが、森で一人道探しをしていたアラニヌを誘拐した。知らせを聞いて急いで駆けつけると、アラニヌはすでに一人の男と強制的に結婚させられていた。一人を奪われたが、一人を奪い返したのだと、彼らは得意げだった。
アーランゼブが誓いを破って魔法を使い、娘を救い出すと、夫となった男は裁判に訴えた。王家と血縁のある名門の出であったため、事態は歪められ、アーランゼブは結婚した娘を奪い返し、夫を侮辱したとして告発された。
幼いアラニヌがどうして結婚に同意できただろうかという訴えは聞き入れられなかった。なぜなら、アーランゼブ自身がまさにその年頃で結婚した人物だったからである。
裁判が不利になり、かえって夫のもとへ戻されそうになると、ある夜明け、アラニヌは自らの首を刺して命を絶った。何度証言しても受け入れられなかった自分の潔白を証明するには、それしかないと思ったからだった。
アーランゼブとニネルは茫然自失となった。裁判はなかったことになったが、もはや何も重要ではなかった。その出来事をきっかけに、ニネルはエル氏族を完全に離れた。
二人は長い間、魂を弔う小屋を建てて森で暮らし、誰にも会わなかった。互いがいなければ、耐えがたい時間だった。
再び百年が流れた。アーランゼブとニネルは、二人だけのアラニ氏族を固く守り続けた。しかし、それ以上子どもは生まれなかった。エルフがその長い生涯で二、三人の子どもしか持たないことを考えれば、それほど驚くことではなかったが、アーランゼブとニネルの悲しみは深かった。
彼ら夫婦を気の毒に思ったアル氏族の親戚が娘を産み、名付け親になってほしいと頼んだ。二人は喜んで引き受け、その代子にアーランゼビアと名付けた。二人はアーランゼビアを娘のように愛し、アラニヌの空白を埋めようと努めた。しかし、それは簡単なことではなかった。
アラニヌを失ってから、ニネルが日ごとに少しずつおかしくなっていくことを知っていたのは、アーランゼブだけだった。
普段は正常で落ち着いているように見えたが、夜に突然起き上がって木切れを抱きしめて撫でたり、自分の首を絞めて気を失ったり、もうすぐ子どもを産むのだと言ってアラニヌの古い服を一つひとつ並べたりすることが、時折続いた。お前が娘を奪っていったのだと、アーランゼブの頬を打ったこともあった。
そのたびにアーランゼブは、ニネルが落ち着くまで強く抱きしめた。そして、その話を誰にも語らなかった。
とても長い百年だった。ニネルは次第に、一人で森をさまようことが多くなった。アーランゼブは後をついていったが、ニネルはある日は笑いながら、またある日は泣きながら、一人でいたいと言った。
散歩して戻ると気分が良くなることもあったため、アーランゼブは彼女を止められなかった。彼はその後、死ぬまでその決断を後悔することになる。
ある日、放心したまま森を歩いていたニネルは毒蛇を踏んだ。毒蛇に噛まれても、彼女は何の処置もしなかった。遅れて人々に発見され、アーランゼブが駆けつけたとき、ニネルは黒く変色した足にも構わず、何かを抱きしめていた。前年の嵐で折れ、黄色い苔に覆われた杜松の幹だった。その苔の色は、まるで幼いエルフたちの金髪のようだった。
すでに昏睡状態だったニネルは、アーランゼブのことも分からなかった。彼の涙も、訴えも、最後の別れの言葉も分からなかった。木の幹を抱きしめたまま、彼女が最後に口にした言葉はこうだった。
「愛しいアラニヌ。ああ、無邪気な私の赤ちゃん。お母さんのところへおいで」
その日から、アーランゼブは抜け殻のようになった。食べも眠りもせず、ニネルが歩いた道を何度もたどり、アラニヌが見つけた道を探し続けた。
エルフたちは、彼が深い悲しみによってすぐに死んでしまうだろうと考えた。しかし数か月が経っても死なないと、森の妖精たちが彼を守っているのだとも、死んだニネルとアラニヌが訪れて世話をしているのだとも噂した。
翌年、アレクサンデルがその知らせを聞いてエノアへ戻ってきたときも、アーランゼブは正気を失ったままだった。アレクサンデルは彼を無理やりデルフィナードへ連れて行った。
アーランゼブが再び正気を取り戻したのは、ニネルが去ってから三度目の秋が終わろうとしていた頃だった。アレクサンデルは、彼が平穏を取り戻した瞬間をはっきり覚えていた。その日も郊外の森で果てしなく道探しをしていた彼を引き止めたとき、アーランゼブはふとこう言ったのだった。
「私が死ねば、アラニ氏族も消えるのでしょう。ならば私は、永遠に生きなければなりません」
韓国公式サイト『ルシウスの記録』より